つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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著者別索引コミック編1【ア〜ト】 著者別索引コミック編2【ナ〜ワ】

小説
LOVE STORIES (gooブログ)
「ホワイトラブ」1
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メディア

『情熱大陸 #978 「科学者・落合陽一」』スーパーダイジェスト

 

今月買った本 

2017年12月 2018年1月  2018年2月  2018年3月  2018年4月  2018年5月  2018年6月

 

Book Review

674.大童澄瞳『映像研には手を出すな!3』 NEW!

673.宮田珠己『東京近郊スペクタクルさんぽ』

672.出水ぽすか・白井カイウ『約束のネバーランド』1〜9 

671. OCHABI Institute『伝わる絵の描き方 ロジカルデッサンの技法』 

670.土屋敦『男のチャーハン道』
669.岸政彦『はじめての沖縄』

668.荒川弘、田中芳樹『アルスラーン戦記 9』

667.高野秀行『間違う力』

666.三部けい『夢で見たあの子のために 2』

665.クロスケ『巨大仏巡礼』

664.ロバート・キンセル、マーニー・ぺイヴァン『YouTube革命 メディアを変える挑戦者たち』

663.東野圭吾『魔力の胎動』

662.諌山創『進撃の巨人 25』

651.堀江貴文『堀江貴文の本はなぜすべてがベストセラーになるのか?』

650.堀江貴文・落合陽一『10年後の仕事図鑑』

649.猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』1〜4 
648.辻田真佐憲『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』
647.中沢新一『アースダイバー 東京の聖地』

646.畠山理仁『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』

645.あだち充『MIX 12』

474.ラルフ・ミレ―ブス『バイコヌール宇宙基地の廃墟』
473.田中圭一『Gのサムライ』
472.宮城公博『外道クライマー』 
471.山本崇一郎『からかい上手の高木さん』1〜3
470.速水健朗『東京どこに住む?住所格差と人生格差』 
469.勝間和代『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』 
468.隈研吾『建築家、走る』
467.三部けい『僕だけがいない街 8』 
466.福島香織『SEALsと東アジア若者デモってなんだ!』 
465.ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
464.松井優征・佐藤オオキ『ひらめき教室』 
463.清野とおる『増補改訂版 東京都北区赤羽 1』 
462.佐々木敦『ニッポンの文学』 
461.桜木武史『シリア 戦場からの声』 
460.平野啓一郎『マチネの終わりに』 
456.町田康『リフォームの爆発』
455.諌山創『進撃の巨人 19』
454.安田寛『バイエルの謎』 
453.松井優征『暗殺教室 19』 
452.万城目学『バベル九朔』 
451.二ノ宮知子『87CLOCKERS 8』 
450.佐々木敦『例外小説論』
449.落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』
PART2 魔法使いになる方法
448.甲斐谷忍『無敵の人 機 
447.堀江貴文責任編集『堀江貴文という生き方』
446.瀬谷ルミ子『職業は武装解除』
445.万城目学『ザ・万字固め』 
444.宮崎克×あだちつよし『怪奇まんが道』 
443.大崎善生『聖の青春』 
442.松井優征『暗殺教室 18』 
441.堀江貴文『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』
440.森山高至『非常識な建築業界 「どや建築」という病』 
439.森博嗣『作家の収支』
438.安田菜津記『それでも、海へ』
437.岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』 
436.桐木憲一『東京シャッターガール』(1〜3)
435.松浦儀実・渡辺保裕『神様がくれた背番号』(1〜3)
434.落合陽一『魔法の世紀』
433.斎藤孝『語彙力こそが教養である』
432.三部けい『僕だけがいない街 7』
431.桜木紫乃『ホテルローヤル』
430.危険地報道を考えるジャーナリストの会編『ジャーナリストはなぜ戦場」へ行くのか』
429.高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 
428.米澤穂信『王とサーカス』
427.岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』 
426.和合亮一『詩の寺子屋』  
425.江川紹子『もか吉、ボランティア犬になる。』
424.松井優征『暗殺教室 17』 
423.米澤穂信『真実の10メートル手前』
422.一色まこと『ピアノの森 26』
421.ユリイカ 1月臨時増刊号 総特集 坂口恭平 
420.あだち充『MIX 8』
419.ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』
418.村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』 
417.東野圭吾『人魚の眠る家』
416.水木しげる『私はゲゲゲ』 
415.西尾維新『掟上今日子の備忘録』 
414.舘野仁美『エンピツ戦記』 
413.岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』 
412.増田俊也・一丸『七帝柔道記 2』 
411.ウエルベック『服従』
410.國分功一郎監修『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
         『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』2(A-F) 
409.二ノ宮知子『七つ屋しのぶの宝石匣 2』
408.島田裕巳・中田考『世界はこのままイスラーム化するのか』
407.小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳』 
406.伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
405.和夏弘雨×碧海景『火葬場のない町に鐘が鳴る時 3』
404.出口治明『人生を面白くする本物の教養』 
403.保坂和志・小沢さかえ『チャーちゃん』
402.朝井リョウ『武道館』
401.森田真生『数学する身体』
400.吉本ばなな『ふなふな船橋』
      吉本ばなな『ふなふな船橋』PART2(固有名詞辞典)
399.上杉隆『悪いのは誰だ!新国立競技場』
398.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 12』
397.小橋めぐみ『恋読 本に恋した2年9ヶ月』
396.会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』
395.飲茶『14歳からの哲学入門』
394.板垣恵介『刃牙道 8』
393.星野智幸『呪文』
392.辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』
391.松井優征『暗殺教室 16』
390.坂口恭平『家族の哲学』  
389.石川美子『ロラン・バルト』 
388.羽海野チカ『3月のライオン 11』 
387.村上春樹『職業としての小説家』
386.羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』 
385.二ノ宮知子『87CLOCKERS 7』
384.古市憲寿『保育園義務教育化』 
383.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 掘 
382.又吉直樹『東京百景』
 PART2(地名辞典)
381.ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』
380.畑中章宏『『日本残酷物語』を読む』
379.村上春樹『村上さんのところ』 
PART2(人名・作品名辞典)
378.辻田真佐憲『ふしぎな君が代』
377.三部けい『僕だけがいない街 6』
376.藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う。』 
375.坂口恭平『幸福な絶望』
PART2(地名索引) 
PART3(人名索引) 
   PART4 (書名索引) 
PART5 (音楽・映画索引)
坂口恭平の熊本ーそれからー NEW!
374.板垣恵介『刃牙道 6』 
373.堤未果『沈みゆく大国 アメリカ <逃げ切れ!日本の医療>』
372.五十嵐泰正・開沼博編『常磐線中心主義』
371.松井優征『暗殺教室 15』
370.伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
369.岸政彦『断片的なものの社会学』
368.吉田修一『森は知っている』
367.甲野義紀『今までにない職業をつくる』
366.増田俊也編『肉体の鎮魂歌』
365.和夏弘雨『火葬場のない町に鐘が鳴る時』1、2
364.伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』
363.北条かや『整形した女は幸せになっているのか』
362.津田大介×西きょうじ『越境へ。』
361.又吉直樹『第二図書係補佐』
360.茂木健一郎『東京藝大物語』
359.あだち充『MIX 7』 
358.堀江貴文『あえて、仕事から外れる。逆転の仕事論』
357.吉川浩満『理不尽な進化』
356.椹木野衣『アウトサイダー・アート入門』
355.松井優征『暗殺教室 14』 
354.黒柳徹子『トットひとり』 
353.東野圭吾『ラプラスの魔女』 
352.福島香織『本当は日本が大好きな中国人』
351.田中圭一『神罰 1.1』 
350.國分功一郎『近代政治哲学』 
349.米澤穂信『満願』
348.海堂尊『スリジエセンター1991』 
347.増田俊也×一丸『七帝柔道記 1』
346.千葉雅也監修『哲子の部屋掘
345.高橋源一郎『デビュー作を書くための超「小説」教室』
344.國分功一郎監修『哲子の部屋 供  
343.荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』
342.國分功一郎監修『哲子の部屋 機
341.柴崎友香『パノララ』
340.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 10』 
339.常岡浩介『イスラム国とは何か』
338.ヤマザキマリ『国境のない生き方』
337.水道橋博士『藝人春秋』(文春文庫版)  
336.大塚明夫『声優魂』
335.國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(1)
                   『暇と退屈の倫理学』(2)
334.鈴木みそ『ナナのリテラシー 1』 
332.又吉直樹『火花』
331.ニコ・ニコルソン『ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り』
330.中森明夫『寂しさの力』
329.岩田健太郎『サルバルサン戦記』
328.橋本幸士『超ひも理論をパパに習ってみた』
327.福島香織『中国複合汚染の正体』  
326.猪瀬直樹『救出 3.11気仙沼公民館に取り残された446人』
325.谷本真由美×ポール・ロブソン『添削!日本人の英語 PART2
324.坂口恭平『ズームイン、服!』
323.荒川弘×田中芳樹『アルスラーン戦記 3』
322.内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』
321.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 供
320.苫米地英人『『21世紀の資本論』の問題点』 
319.阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』
318.三部けい『僕だけがいない街 5』
317.増田俊也『VTJ前夜の中井祐樹』
316.水野敬也『夢をかなえるゾウ 3』
315.岩崎夏海『『もしドラ』はなぜ売れたのか? 
314.フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』  
313.あだち充『MIX 6』
312.石田衣良『余命一年のスタリオン』
311.諌山創『進撃の巨人 15』 
310.アレックス・カー『ニッポン景観論』 
309.浦沢直樹・長崎尚志『MASTERキートン Reマスター』  
308.倉方俊輔・柴崎友香『大阪建築 みる・あるく・かたる』
307.坂口恭平『隅田川のエジソン』 
306.貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン 14』  
305.堀江貴文&テリヤキ編集部『ばかウマ』 
304.板垣恵介『刃牙道 3』
303.岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ!』
302.二ノ宮知子『七つ屋志のぶの宝石匣 1』 
301.辨野義巳『大便通』
300.船曳健夫『旅する知』 
299.柄谷行人『遊動論 柳田国男と山人』 
298.増田俊也・原田久仁信『KIMURA 4』 

295.唐橋ユミ『わたしの空気のつくりかた』

294.海堂尊『アクアマリンの神殿』 
293.一色まこと『ピアノの森 25』 
292.辻田真佐憲『日本の軍歌』
291.平野啓一郎『「生命力」の行方』
290.川村元気『億男』
289.勝間和代『稼ぐ話力』 
288.ニック・ビルソン『ツイッター創業物語』
287.Jay.他『SHERLOCK ピンク色の研究』
286.松井優征『暗殺教室 11』
285.伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
284.小山宙也『宇宙兄弟 24』 
283.瀬戸内寂聴・堀江貴文『死ぬってどういうことですか?』 
282.早野龍五・糸井重里『知ろうとすること。』 
281.中井祐樹『希望の格闘技』
280.万城目学『悟浄出立』 
279.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 9』 
278.坂口恭平『現実脱出論』
 
目次 | 09:33 | comments(1) | - | - |
大童澄瞳『映像研には手を出すな!3』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』待望の3巻の発売である。これほど、発売が待たれた作品はない。

通常の漫画であれば、ストーリー展開を楽しんだのち、あそこの場面は台詞がよかったとか、あの場面の構図は凄かったとか、ときどき印象的なシーンを読みかえす程度である。

 

しかし、『映像研には手を出すな!』の場合、一通り読み通したところがスタート地点である。ページのあちこちに隠された、無数のアイテムを発見しながら、一つのダンジョンとなっている本の探検が始まる。

 

たとえば、吹き出しの中の台詞が実に効果的に使われている。平面の奥行きを出すだけでなく、俯瞰の構図でも、下ほど小さくなる文字が、単に立体性を強調するだけでなく、読者に情動までも伝えてくる。要するに、エモいのである。

 

しかし、パースのついた文字は、いつでもどこでも始まるわけではない。日常的な空間が曲折し、ダンジョン化するシーンにおいて、その水平や、垂直の奥行きを強調するために、要所要所で効果的に用いられるのである。

 

橋の脇から階段を下り、暗渠の中を電撃三人娘が進む。探検ごっこが始まる場面でのパースつき文字は特に効果的だ。狭さや危険、恐怖感までも読者に伝えている。

(『映像研には手を出すな!3』p9)

 

あるいはちび森氏(幼少期の金森さやか)の回想が始まるとき。親戚が営む酒屋はまず俯瞰の構図で上からとらえ、次に店の奥から三人が入ってきた入り口方面を透視するかたちで用いられる。

(『映像研には手を出すな!3』p100)

 

最初時間的距離があるが、視点が登場人物と同化するや、たとえ俯瞰の構図であっても、パースつき文字は使われなくなる。次に使われるのは、映像研部室の吹き抜けスペースの中に、外部からの闖入者をとらえる時である。

 

『映像研には手を出すな!』の魅力の第二は、リアルな場面が、浅草みどりや水崎つばめが妄想し始めるや否や、SFアニメ世界の絵へと変化することである。暗渠の先の水没した都市の遺構は、多島海国家群、大アトランティス連合となり、その設定図が見開きで展開される。しかし、浅草みどりが転倒することで、最強の妄想世界は中断され、現実の空間へと引き戻される展開も秀逸だ。

 

『映像研には手を出すな!』の第三の魅力は、「電撃三人娘」のキャラ立ちした個性だ。通には、浅草みどりから「金の亡者」と呼ばれるリアリスト金森さやかのキャラクターが受けているが、個人的には断然浅草みどりである。というのも、丸に点を二つと、眉を表す直線二本、口を表す直線一本で顔を描くことのできる浅草みどりの千変万化の表情を、著者は描きわけているからだ。浅草みどりの表情は、そのまま内弁慶なヲタククリエイターの内面を、映し出す。

 

最強の世界を体現する場面での、少年漫画の主人公のようなどや顔、しかし、人前では一転して不安になる。ピンチには弱く、すぐにテンパって冷や汗を流す。だが、ひらめいたり好奇心の対象を発見すると突然に復活する。ときには仮性包茎的に自分の衣服の中に引きこもることもある。ときには、目の前が黒くタヌキになったり、額に三角巾をつけたり、芸が細かい。ドラえもん並のシンプルな造作で、これほど多様な感情表現を行った例は、見つけるのが困難だ。作者が浅草の表情を楽しんで描いているのがよくわかるのである。それに比べると、金森さやかも、水崎ツバメも表情のレパートリーがずっと少ない。

 

(『映像研には手を出すな!3』p130の浅草みどりの表情変化、懐古的な一枚目のみ鼻が現れ目もリアルに寄せている)

 

さて、この3巻では、第四のキャラクターが登場する。生徒会の依頼で、部室の退去を迫った音響研のたった一人の住人、百目鬼(どうめき)氏である。この出会いによって、新たなケミストリーが生じ、映像研はさらなるパワーアップを遂げることだろう。

 

第3巻は、(ビッグサイトでのコミケを連想させる)COMET-A538という外部イベントに、映像研が参加を決めるところから始まる。しかし、外部での金銭授受をよしとしない学校当局との間に対立が生じる。金森氏の弁舌をもってしてもなかなか手強いのである。さらに、DVD焼きを依頼した業者の問題も発覚するなど前途多難だ。この難局を、映像研はいかに乗り切るのか。さらに、業務提携した音響研の百目鬼氏との出会いによって、何が変わるのか。そしてコメットAの成否は。

 

第3巻では、さらに浅草みどりと金森さやかとのなれそめの場面や、幼い金森氏がいかにして現在の金銭感覚を身につけたかといった昔話や、芝浜高校の対岸の風景も初公開される。てっきり海だと思っていたあの場所が実は…

 

そんなわけで、着実に進化しながら、前に進み続ける映像研三人娘の活躍から目が離せない。第三巻のカバーも、「映像研部室ない備品配置は定期的に変化しているので用観察」だの、「芝浜高校にそびえる大きな円筒状の建物は図書館である」だの作者による

数々のトリビアが解説されているので、要チェックである。

 

Kindle版は6月22日配信

関連ページ:

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』1,2

宮田珠己『東京近郊スペクタクルさんぽ』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略  ver.1.01

 

 

宮田珠己『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)がめぐる場所の多くは、人々の住んでいるすぐそばにありながら、その凄さを知られずに埋もれているスポットである。要するに、知る人ぞ知る凄い場所。いわゆる風光明媚な絶景スポットというわけではない。というのも、三原山と小網代の森を除いて、これらの場所のいずれも自然のままの手つかずの場所ではないからである。

 

まず最初に訪れるのは、栃木県にある地底湖。実は大谷石の採掘場跡にできた湖である。町全体が大谷石の上にあるため、建材として重宝される大谷石をとるために、町中が穴だらけになってしまったのだ。

 

ある石材屋の裏の穴を見下ろすと、採掘した跡が切り立った崖となって、まるで香港の街のようである。

 

しかし、それは前触れにすぎなかった。地底湖は、人の出入りを拒むゲートの先にあった。

 

 フェンスでできたゲートの鍵を開けて中に入ると、正面には大きな岩山がそびえており、大きくくりぬかれていた。この町ではありとあらゆる岩はくりぬかれている。くりぬかれていないものは岩とは呼べないくらいだ。p27

 

さらにポツンポツンとランプの灯るスロープを下るとそこは地底湖だった。そこからラフティングボートに乗り込み、さらなる冒険の旅へと向かう。奥に進んだ後、ボートを下りる。

 

 上陸すると、そこにはまた別の空間があり、巨大な竪穴があって、その穴から太陽の光が降り注いでいた。

 われわれのいる位置から空は見えなかったが、たぶん先ほどの石材屋で覗き込んだ香港穴も中はこんなふうになっているのだろう。外気が暖かくなる夏には、この竪穴部分に雲ができるとマッハ氏が教えてくれた。p30

 

まるで、ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』ではないか。

 

続く第2章で訪ねるのも、地底500mの位置にある神流川発電所である。そのスケールの大きさは、宇宙戦艦ヤマトの地下格納庫を思わせる。

 

 部屋に入った瞬間、思わず、おおお、と声が出た。

 でかい。聞きしにまさるでかい穴だ。

 天井はアーチ状になっており、高さ52m。床の幅は33m、奥行き216mのやや高さのあるかまぼこ型の空間だ。

p45

 

実際には、宇宙戦艦ヤマトは全長265.8m高さ77m幅34.6mなのでもう一段拡張工事が必要である。

 

だからといって、一冊丸ごと人知らぬ地下をめぐる旅が続くわけではない。第3章では、堂々と街中に出てしまう。なんと江の島と大船を結ぶ湘南モノレールを訪れるのだ。ふだん通勤通学に使っている人には特に驚くべきものでもないのかもしれないが、このモノレールがすごいらしいのである。

 

モノレールには、跨座式と懸垂式がある。そしてモノレールはなんと言っても、懸垂式であるが、懸垂式は千葉モノレールと湘南モノレールしかない。ここで著者のモノレール愛が爆発する。

 

 モノレールにはレールに跨って走る跨座式と、レールにぶら下がって走る懸垂式があり、このぶら下がって走る懸垂式がどうにも痺れるのだ。

 なぜぶら下がっているモノレールがいいのか。

 跨座式モノレールは、モノレールといえどもレールの上を走る以上、電車の仲間であることが一目瞭然である。だが懸垂式は、電車の仲間と呼ぶにはためらいがある。車両の下にレールがなく、空を飛んでいるようなその姿は、電車とはなんだか違うものであり、むしろロープウェイの仲間というべきである。p55

 

千葉モノレールが平坦な市街地を通るのに対し、湘南モノレールは起伏のある地形を、最高速度75キロというもの凄い速度で駆け抜ける。まるでジェットコースターのように。

 

さらに、第8章では工場の中を走り抜ける岳南鉄道に乗車する。すべての駅から富士山が見えるのが売りだが、著者の気持ちは、間近に迫るくねくねと複雑に曲がりくねった工場の配管の方へと向かうのである。すると工場は、ジェットコースターが走り抜ける複雑な骨組みの遊園地と変わる。

 

では、『東京近郊スペクタクルさんぽ』がめぐるのは、もっぱら地下や地上の大がかりな人工の場所なのかというと、それを覆す例が第四章に現れる。ここで訪れることとなるのは、「波の伊八」と通称される社寺彫刻の巨匠である。あの葛飾北斎でさえ、波を描くのに参考にし、影響を受けたほどの名工。かくして著者一にカメラマンと編集者を加えた一行は、房総半島のあちこちに散在するという伊八の彫刻を訪ね歩くことになる。そのとき、新しい世界が読者の中でも開くことだろう。

 

マクロコスモスではなく、社寺の軒下に圧縮されたミクロコスモス(小宇宙)をそこに認めるのである。そして、第5章のもう一人の彫り師後藤義光をめぐる旅も、隠れキリシタンの残した魔鏡の訪問も、同じようなミクロコスモスへの旅である。それが、どうスペクタクルなのかは読んでのお楽しみである。

 

次から次へと、新しい趣向をこらして、驚くような場所が紹介され続ける。きわめつけは、かつて三原山の火口にゴンドラに乗って、二度にわたって数百メートル下まで下降したその記録の文章である。

 

午後4時15分  第二探検者真柄写真課長がカメラを持って降下を開始。


同19分    爆発あり。

       「灰降りかかり身体相当の暑さを感じたり」


同20分    ストップの電話。フィルムの交換。

                呼吸苦痛を訴えるが降下継続。


同25分          四百尺降下。爆発しきり。

              地上より上がってはどうかと打診。

              真柄課長哄笑して引き続き降下の返事。

p249

 

まともな神経ではないと思われるが、この後さらに驚くべき記述が続くのである。このおそるべき実験が行われたのは、昭和8年5月29日のことだった。そんな歴史の1ページも三原山の砂漠で蘇るのである。

 

こんな風に、十二の旅を、文章の中で追体験することで、読者は新しい場所を知るというよりも、新しい視点を獲得する。その視点こそは、私たちのすぐそばにある異界を発見する入り口にほかならない。

 

『東京スペクタクルさんぽ』は、常識に染まり驚きを忘れかけた私たちに、新たな好奇心の燃料を次々に投下してくれる好著である。

 

構成は以下の通り。

 

はじめに-----散歩の危機

第1章 地底湖とヘンテコな町

第2章 地下500mの巨大空洞

第3章 ジェットコースター・モノレール

第4章 もりあがる彫刻(波の伊八編)

第5章 ますますもりあがる彫刻(後藤義光編)

第6章 ジャングルとカニ

第7章 世にも奇妙な素掘りトンネル

第8章 工場のなかを走る電車

第9章 隠れキリシタンの魔境

第10章 渓谷と森の番人

第11章 本物の砂漠を見に(前編)

第12章 本物の砂漠を見に(後編)

あとがき

参考文献

 

「第3章 ジェットコースター・モノレール」 「第7章 世にも奇妙な素掘りトンネル」は、リンク先でプロモーション動画を見ることができます。

 

 

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