つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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著者別索引コミック編1【ア〜ト】 著者別索引コミック編2【ナ〜ワ】

小説
LOVE STORIES (gooブログ)
「ホワイトラブ」1
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供屮據璽僉璽螢譟璽轡腑鵝1, 2, 34, 5,  6, 7,  8,  9,  10,11-1213-14, 15, 16-17,  18,19
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セール情報

電子書籍セールのまとめ

 

メディア

『情熱大陸 #978 「科学者・落合陽一」』スーパーダイジェスト

 

Magazine Watch

[新潮 2019 9月号 千葉雅也『デッドライン』]

鴻巣友季子「100分de名著 マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』」

國分功一郎「100分de名著 スピノザ 『エチカ』」

千葉雅也・東浩紀『実在論化する相対主義』(ゲンロンβ28,29より)

NewsPocks Magazine Autumn 2018 vol.2

NewsPicks Magazine summer 2018 vol.1

 

今月買った本 

2017年12月 2018年1月  2018年2月  2018年3月  2018年4月    2018年5月 

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2019年12月 2020年1月  2020年2月  2020年3月

 

Book Review

778.村上龍『MISSING 失われているもの』 NEW!

777.砥上裕将、堀内厚徳『線は、僕を描く』1〜4 

776.森山高至『マンガ建築考』

775.藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』

774.ドミニク・チェン『未来をつくる言葉 わかりあえなさをつなぐために』

773.佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』

772.岸政彦、石岡丈昇、丸山里美『質的社会調査の方法』

771.Tak.『書くための名前のない技術 case3 千葉雅也さん』 

770.石田英敬『現代思想の教科書 世界を考える知の地平15章』

769.J・ウォーリー・ヒギンズ『続 秘蔵カラー写真で味わう 60年前の東京・日本』

768.スティーヴン・キング『ドクター・スリープ』上、下

767.島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』上、下

766.米澤穂信『本と鍵の季節』

765.古市憲寿『奈落』

764.中田考『13歳からの世界征服』

763.松本卓也『創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで』

762.恩田陸『祝祭と予感』

761.乙武洋匡『四肢奮迅』

760.伊藤計劃、三巷文『ハーモニー』3、4 

759.島田裕巳『なぜ京都がいちばんなのか』

758.岸政彦『街の人生』

757.宮田珠己『いい感じの石を拾いに』

756.落合陽一『2030年の世界地図帳』

755.中森明夫『青い秋』

754.坂口恭平『まとまらない人』

753.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 宗

752.伊坂幸太郎『クジラアタマの王様』

751.國分功一郎『原子力時代における哲学』

750.迫稔雄『バトゥーキ 5』

749.吉田修一『犯罪小説集』

748.丸山宗利『カラー版 昆虫こわい』

747.石田衣良『絶望スクール 池袋ウエストゲートパーク将后

746.春場ねぎ『五等分の花嫁』1〜11

745.斉藤哲也『試験に出る哲学 「センター試験」で西洋思想に入門する』

744.千住真理子『ヴァイオリニスト20の哲学』

743.東野圭吾『希望の糸』

742.堀江貴文『ハッタリの流儀』

741.鍋倉夫『リボーンの棋士』1〜4

740.内藤理恵子『誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門』

739.平野啓一郎『「カッコいい」とは何か』

736.たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編1』

735.野崎まど『HELLO WORLD』

734.本間龍『ブラックボランティア』

733.福島香織『ウイグル人に何が起こっているのか 民族迫害の起源と現在』

732.堀尾省太『ゴールデンゴールド 6』

731.飲茶『正義の教室 善く生きるための哲学入門』

730.三浦英之『牙 アフリカゾウの密猟組織を追って』

729.河合雅司『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』

728.岸政彦『図書室』

727.山口つばさ『ブルーピリオド 5』

726.伊坂幸太郎『シーソーモンスター』

725.ヤマザキマリ『パスタぎらい』

724.篠原健太『彼方のアストラ』1〜5

723.藤井太洋『ハロー・ワールド』

722.千葉雅也『アメリカ紀行』

721.大童澄瞳『映像研には手を出すな! 4』

720.國分功一郎・互盛央『いつもそばには本があった。』

719.貴志祐介『エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く』

718.岩本ナオ『マロニエ王国の七人の騎士』1〜3

717.安富歩『老子の教え あるがままに生きる』

716.さやわか『名探偵コナンと平成』
715.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 次

714.森田真生『数学の贈り物』

713.浦沢直樹『あさドラ! 1』

712.小玉ユキ『青の花  器の森 2』

711.千葉雅也、二村ヒトシ、柴田英里『欲望会議 「超」ポリコレ宣言』

710.村田沙耶香『地球星人』

708.平川哲弘『ヒマワリ』1〜7

707.宮田珠己『ニッポン47都道府県 正直観光案内』

706.青木真也『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』

705.勝間和代『勝間式 超コントロール思考』

704.新川直司『さよなら私のクラマ― 8』

703.堀江貴文『堀江貴文 VS. 鮨職人 鮨屋に修業は必要か?』

702.ヤマザキマリ『ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコ』

701.マツキタツヤ、宇佐崎しろ『アクタージュ act-age』1-5 

700.坂口恭平『建設現場』

699.迫稔雄『バトゥーキ』1,2

698.落合洋司『ニチョウ 東京地検特捜部特別分室』

697.えらいてんちょう『しょぼい起業で生きていく』

696.坂口恭平『cook』

695.前田裕二『メモの魔力』

694.ヴィトゲンシュタイン『小学生のための正書法辞典』

693.落合陽一『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる人と育てる人のための教科書』

692.津田大介『情報戦争を生き抜け 武器としてのメディアリテラシー』

691.伊坂幸太郎『フーガはユーガ』

690.J・ウォーリー・ヒギンズ『60年前の東京・日本』

689.落合陽一、猪瀬直樹『ニッポン 2021-2050』

688.東野圭吾『沈黙のパレード』

687.かっぴー、うめ『アイとアイザワ 1』

686.ナカムラクニオ、道前宏子『村上春樹語辞典』

685.石田衣良『七つの試練 池袋ウエストゲートパーク将検

684.小玉ユキ『青の花 器の森 1』 

683.堀江貴文『健康の結論』

682.山口つばさ『ブルーピリオド』

681.『漫画家読本vol.6 あだち充本』

680.ポール・ウェイド『プリズナートレーニング』

679.関根虎洸『遊郭に泊まる』

678.荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない 2』

677.坂口恭平『家の中で迷子』

676.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス察

675.落合陽一『デジタルネイチャー』(前編)  

      落合陽一『デジタルネイチャー』(後編) 

674.大童澄瞳『映像研には手を出すな!3』

673.宮田珠己『東京近郊スペクタクルさんぽ』

672.出水ぽすか・白井カイウ『約束のネバーランド』1〜9 

671. OCHABI Institute『伝わる絵の描き方 ロジカルデッサンの技法』 

670.土屋敦『男のチャーハン道』
669.岸政彦『はじめての沖縄』

668.荒川弘、田中芳樹『アルスラーン戦記 9』

667.高野秀行『間違う力』

666.三部けい『夢で見たあの子のために 2』

665.クロスケ『巨大仏巡礼』 

664.ロバート・キンセル、マーニー・ぺイヴァン『YouTube革命 メディアを変える挑戦者たち』

663.東野圭吾『魔力の胎動』

662.諌山創『進撃の巨人 25』 

651.堀江貴文『堀江貴文の本はなぜすべてがベストセラーになるのか?』

650.堀江貴文・落合陽一『10年後の仕事図鑑』

649.猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』1〜4  
648.辻田真佐憲『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』 
647.中沢新一『アースダイバー 東京の聖地』

646.畠山理仁『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』

645.あだち充『MIX 12』 

474.ラルフ・ミレ―ブス『バイコヌール宇宙基地の廃墟』
473.田中圭一『Gのサムライ』
472.宮城公博『外道クライマー』 
471.山本崇一郎『からかい上手の高木さん』1〜3
470.速水健朗『東京どこに住む?住所格差と人生格差』 
469.勝間和代『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』 
468.隈研吾『建築家、走る』
467.三部けい『僕だけがいない街 8』 
466.福島香織『SEALsと東アジア若者デモってなんだ!』 
465.ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
464.松井優征・佐藤オオキ『ひらめき教室』 
463.清野とおる『増補改訂版 東京都北区赤羽 1』 
462.佐々木敦『ニッポンの文学』 
461.桜木武史『シリア 戦場からの声』 
460.平野啓一郎『マチネの終わりに』 
456.町田康『リフォームの爆発』
455.諌山創『進撃の巨人 19』
454.安田寛『バイエルの謎』 
453.松井優征『暗殺教室 19』 
452.万城目学『バベル九朔』 
451.二ノ宮知子『87CLOCKERS 8』 
450.佐々木敦『例外小説論』
449.落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』
PART2 魔法使いになる方法
448.甲斐谷忍『無敵の人 機 
447.堀江貴文責任編集『堀江貴文という生き方』
446.瀬谷ルミ子『職業は武装解除』
445.万城目学『ザ・万字固め』 
444.宮崎克×あだちつよし『怪奇まんが道』 
443.大崎善生『聖の青春』 
442.松井優征『暗殺教室 18』 
441.堀江貴文『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』
440.森山高至『非常識な建築業界 「どや建築」という病』 
439.森博嗣『作家の収支』
438.安田菜津記『それでも、海へ』
437.岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』 
436.桐木憲一『東京シャッターガール』(1〜3)
435.松浦儀実・渡辺保裕『神様がくれた背番号』(1〜3)
434.落合陽一『魔法の世紀』
433.斎藤孝『語彙力こそが教養である』
432.三部けい『僕だけがいない街 7』
431.桜木紫乃『ホテルローヤル』
430.危険地報道を考えるジャーナリストの会編『ジャーナリストはなぜ戦場」へ行くのか』
429.高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 
428.米澤穂信『王とサーカス』
427.岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』 
426.和合亮一『詩の寺子屋』  
425.江川紹子『もか吉、ボランティア犬になる。』
424.松井優征『暗殺教室 17』 
423.米澤穂信『真実の10メートル手前』
422.一色まこと『ピアノの森 26』
421.ユリイカ 1月臨時増刊号 総特集 坂口恭平 
420.あだち充『MIX 8』
419.ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』
418.村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』 
417.東野圭吾『人魚の眠る家』
416.水木しげる『私はゲゲゲ』 
415.西尾維新『掟上今日子の備忘録』 
414.舘野仁美『エンピツ戦記』 
413.岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』 
412.増田俊也・一丸『七帝柔道記 2』 
411.ウエルベック『服従』
410.國分功一郎監修『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
         『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』2(A-F) 
409.二ノ宮知子『七つ屋しのぶの宝石匣 2』
408.島田裕巳・中田考『世界はこのままイスラーム化するのか』
407.小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳』 
406.伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
405.和夏弘雨×碧海景『火葬場のない町に鐘が鳴る時 3』
404.出口治明『人生を面白くする本物の教養』 
403.保坂和志・小沢さかえ『チャーちゃん』
402.朝井リョウ『武道館』
401.森田真生『数学する身体』
400.吉本ばなな『ふなふな船橋』
      吉本ばなな『ふなふな船橋』PART2(固有名詞辞典)
399.上杉隆『悪いのは誰だ!新国立競技場』
398.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 12』
397.小橋めぐみ『恋読 本に恋した2年9ヶ月』
396.会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』
395.飲茶『14歳からの哲学入門』
394.板垣恵介『刃牙道 8』
393.星野智幸『呪文』
392.辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』
391.松井優征『暗殺教室 16』
390.坂口恭平『家族の哲学』  
389.石川美子『ロラン・バルト』 
388.羽海野チカ『3月のライオン 11』 
387.村上春樹『職業としての小説家』
386.羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』 
385.二ノ宮知子『87CLOCKERS 7』
384.古市憲寿『保育園義務教育化』 
383.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 掘 
382.又吉直樹『東京百景』
 PART2(地名辞典)
381.ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』
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村上龍『MISSING 失われているもの』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

村上龍『MISSING 失われているもの』は奇妙な小説である。

 

まず、章の頭、そして文章のところどころに入る、村上龍自身によるおびただしい数のカラー写真。

写真は、撮りっぱなしのものもあるが、多くはCGによって加工されている。

写真の多くは二人の女性の写真と、猫と犬の写真、通りの、室内の写真、花や樹木、森や林の写真である。

それらは行単位で、本文へと対応している。単なる小説ではなく、一種のフォトストーリーとなっているのである。

 

そして、内容もつかみどころがなく、どんどんとテーマがずれてゆくかのように見える。

 

いきなり猫がしゃべりだしたかと思えば、「わたし」の前に現れた一人女性の存在さえも不確かになり、もはや存在しない店へと「わたし」は誘われる。不思議な三筋の光が見えたりする。これは、オカルトなのか、ホラーなのか、ファンタジーなのか。

 

タイトルからして、何かの喪失が問題である。失われたものは失われたこと自体がわからないが、喪失がわかるのは「失われているもの」である。ミッシング、失われているものの探究がテーマである。その手がかりとなるのが、どうやら一人の女性らしい。

 

「ミッシング。まさにそれだ。お前が、探そうとしているのは、ミッシングそのものなんだ。何かが失われている。ある世界から? お前から? おそらく両方だろう。お前は、今何が失われているのかを、知りたいと思っている。確かに、何が失われている。そして、何が失われているのかを誰も知らないし、知ろうともしない。それで、お前は、どうすればそれがわかるのか、どこへ行けばいいのか、誰と会えばいいのかも、本当は知っている。以前、お前の背後霊について、どうのこうのと言った女がいただろう。まずあの女を捜すんだな。若い女だった。(第1章 「浮雲」 その1)

 

その女は女優で、部屋で映画を一緒に見たことがあったという。そこからその女の過去の記憶と現在の現実が入り混じった世界が広がってゆく。女の名前は真理子、17年前に今はもう存在しない六本木の「シェルブール」で出会った。

 

ところが再会した真理子は、思いがけないことを口にする。

 

「『シェルブール』ですよね。実は、まだあるんですよ。トモさんでしたか、あのシェフの方もいらっしゃいますし、もちろん、あのオーナーさんも、いるんです。わたしが、案内します」(第1章 「浮雲」 その3)

 

真理子との再会をきっかけに、「わたし」はこの世とあの世のあわい、現実と妄想が入り混じったエリアへとひきこまれてゆくのである。古代ローマの遺跡、ヴィラ・アドリアーナの記憶が蘇る。私は真理子とセックスはしていない。だが、彼女はその折に私と結ばれたという。そもそもこの真理子は、「わたし」の知っている真理子と同じなのだろうか。真理子という存在をめぐり、「わたし」は堂々めぐりをすることになる。

 

 もしかしらら、この女は、真理子でないのかもしれない、実在しない女なのかもしれない。わたしははじめてそんな疑いを抱いた。(第1章 「浮雲」 その3)

 

「わたし」の疑いを、心療内科医は、作家である「わたし」の仕事と結びつけようとする。

 

 あなたの精神は、想像することが核となっていて、まるでどうやって作られたのかわからないような複雑な寄せ木細工のようなものです。それが、一つでも崩れると、他にも歪みが出ます。いや、病気という意味ではないですよ。過剰な想像が、現実を包み込んでしまったり、そういうことですが、わたしが言うこと、わかりづらいですか」

(第2章 「東京物語」 その4)

 

医師は、真理子が確実に存在する物的証拠を保存しろと「わたし」に言うのである。次に会った真理子は、実在するようだが、ときどき記憶が曖昧になると不気味なことも言った。

 

ホテルに届いたメールは、死者へと、三年前に死んだ父へとわたしを結びつけようとする。

 

やがて、声は真理子から母へと変わり、終戦とともに命からがら朝鮮から佐世保へと引き上げてきた彼女の半生が語られる。そしてその人生のなかに「わたし」が登場する。これは、私小説なのだろうか。一族の話なのか。

 

母の話は、彼女の人生を語るだけでなく、幼いころからの「わたし」の行動や性格をつぶさに解説する。「ブルー」と題された第9章では、作家としての「わたし」の誕生を語る。そして、父と母とわたしの関係性をも明らかにする。そして、その声を、過去の声の記憶と「わたし」の想像の産物ととらえながら、「わたし」は生と死の間、あの世とこの世の間をさまよい続けるのである。

 

現実と想像、過去の記憶が区別つかず、等価なものとして、混在し、この小説を形作る。

そして「わたし」はそのことに自覚的である。それは、文章のいたるところで入り込む心療内科医の注釈的な言葉によって、軌道修正され、それを受け入れるわたしの言葉によって安定化され続ける。

 

小説は、どこまでもファンタジーやオカルトになりそうでいて、ならない。

それは想像を想像のままにとどめて、神秘的な意味を持った真実へと変えたりしないメタ意識が常に存在するからだ。

 

「わたし」は、猫の言葉も、母の言葉も、「わたし」の意識がリフレクトしたもの、無意識の表現としてとらえようとする。

そうして、幼いころの母、そして父親が死んだ後の最近の母と自分の関係性を、その語りの中で明らかにするのである。

 

その「わたし」の特性は、中学3年のころ書いた作文を経て、そのまま小説の物語世界へとつながってゆく。

 

(…)小説は、あなたにとって、何事にも代えがたい最大の救済であり、達成感を与えてくれるものであり、そして神経の奥深くに響く抑うつを植えつけるもの。小説がなければおそらく生きていけないが、そのこと自体、受け入れるのは簡単ではなかったのでしょう」(第9章 「ブルー」その1)

 

猫の声に導かれ、不思議な世界へと舞い込み、真理子という女性の声、母の声を通して、見出されるものは一体何だろうか。

 

『MISSING 失われるもの』は、「わたし」の物語である。社会的役割を引き受ける意識の物語ではなく、現在の目の前の対象、「わたし」の記憶、「わたし」の記憶の中に含まれる家族の、他者の記憶、そしてそれらから派生するもろもろの想像、そのすべてが現象としての「わたし」であり、現実とは、意識がつくりだす境界によってつくられた一種のフィクションにすぎない。『MISSING 失われるもの』は、作家村上龍が自らを素材とした、「わたし」という存在の脱構築的な物語である。

 

 Kindle版

(紙の本が縦書きなのに対し、Kindle版は横書きで、メールマガジンで公開されたときの体裁にちかいものになっており、呼んだ印章もかなり異なることだろう)

書評 | 03:55 | comments(0) | - | - |
砥上裕将、堀内厚徳『線は、僕を描く』1〜4

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

砥上裕将原作、堀内厚徳漫画の『線は、僕を描く』は、水墨画の道を志すこととなった一人の青年の成長の物語である。

 

青山霜介は、事故で両親を失ったばかりの孤独な青年だった。見知らぬ老人に、声をかけられ、水墨画を描くことになった。老人の名前は、篠田胡山、実は水墨画の大家だった。まったくの素人でありながらも、胡山は霜介の言動から水墨画の卓越した才能があることを見抜き、自分のもとを訪れるように、言うのだった。

 

その場に居合わせた の孫娘千瑛(ちあき)は、ふだん弟子をとらないことで知られる祖父の行動を不審に思うが、再会した霜介に、何か感じるところがあった。

 

胡山の弟子である西濱湖峰斉藤胡西や大家の藤堂翠山らとの出会いの中で、しだいに霜介の才能は開花してゆく。いつしか水墨画の頂点である胡山賞を賭けて、千瑛と争うまでに。

 

『線は、僕を描く』を第一に特徴づけるのは。人物の顏、姿勢、動きの美しさであり、同時にそれを表現する描線と、モノクログラデーションの美しさである。

 

(『線は、僕を描く 1』における篠田千瑛)

 

そしで、第二には描かれる水墨画の美しさである。ただ単に美しいだけでなく、描いた人物の境地に一致しながら、テーマを的確に表現する絵の美しさ。そして、この二つが混然一体となって構成されている点である。

 

まるで水墨画に興味がない人も、物語を追う中で、墨のすり方や、調墨の技術、水墨画を代表する四つのテーマである四君子(春蘭、竹、梅、菊)などの基礎知識を知らず知らずのうちに知るようになる。そして、自ら描かないまでも、次々に描かれる絵の素晴らしさが自然に理解できるようになるだろう。

 

君が引く線の一つ一つに…

その一つ一つに君の歩んできた道が---

君という人間が正直に映る

 

その蘭こそ  今の君なんだよ

(『線は、僕を描く 1』p116-117)

 

 

『線は、僕を描く』と表題にあるように、水墨画の線は、単なる線ではなく、素直にその人の人生や現在の境地を表すものとして描かれる。青山霜介の才能もまた、第一に絵の表現の向こう側に、その人物や境地を見抜く才能として描かれているのである。

 

君の目には見たものがありのままに映る

それがどれだけすごいことか

君はわかってないんだ

(『線は、僕を描く 2』p116-117)

 

『線は、僕を描く』は、悪人が存在せず、その展開はいささか予定調和のきらいがあることは否めないが、『線は、僕を描く』では、ドラマは絵の外よりも、絵の中に、絵が描かれる瞬間の中に宿る。

 

(『線は、僕を描く 3』における斉藤胡西)

 

表現される人物の線、水墨画の線は圧倒的である。『線は、僕を描く』は、読者を、たちまちのうちに水墨画の世界へと引き込み、その素晴らしさ、奥の深さを伝えることのできる傑作コミックなのである。

書評 | 03:29 | comments(0) | - | - |

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