つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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著者別索引コミック編1【ア〜ト】 著者別索引コミック編2【ナ〜ワ】

小説
LOVE STORIES (gooブログ)
「ホワイトラブ」1
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供屮據璽僉璽螢譟璽轡腑鵝1, 2, 3, 4, 56, 78,  9,  10, 11-12, 13-14, 15, 16-17,  18,19
掘峺諺杪╋酋福1, 2, 3, 4, 5 6, 7, 8, 9,10,11, 12, 13, 14,15,16,17,18,19

Books
474.ラルフ・ミレ―ブス『バイコヌール宇宙基地の廃墟』
473.田中圭一『Gのサムライ』
472.宮城公博『外道クライマー』
471.山本崇一郎『からかい上手の高木さん』1〜3
470.速水健朗『東京どこに住む?住所格差と人生格差』 
469.勝間和代『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』
468.隈研吾『建築家、走る』
467.三部けい『僕だけがいない街 8』
466.福島香織『SEALsと東アジア若者デモってなんだ!』
465.ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
464.松井優征・佐藤オオキ『ひらめき教室』 
463.清野とおる『増補改訂版 東京都北区赤羽 1』
462.佐々木敦『ニッポンの文学』 
461.桜木武史『シリア 戦場からの声』
460.平野啓一郎『マチネの終わりに』
456.町田康『リフォームの爆発』
455.諌山創『進撃の巨人 19』
454.安田寛『バイエルの謎』 
453.松井優征『暗殺教室 19』
452.万城目学『バベル九朔』 
451.二ノ宮知子『87CLOCKERS 8』 
450.佐々木敦『例外小説論』
449.落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』
  PART2 魔法使いになる方法
448.甲斐谷忍『無敵の人 機 
447.堀江貴文責任編集『堀江貴文という生き方』
446.瀬谷ルミ子『職業は武装解除』
445.万城目学『ザ・万字固め』
444.宮崎克×あだちつよし『怪奇まんが道』
443.大崎善生『聖の青春』 
442.松井優征『暗殺教室 18』
441.堀江貴文『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』
440.森山高至『非常識な建築業界 「どや建築」という病』
439.森博嗣『作家の収支』
438.安田菜津記『それでも、海へ』
437.岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』
436.桐木憲一『東京シャッターガール』(1〜3)
435.松浦儀実・渡辺保裕『神様がくれた背番号』(1〜3)
434.落合陽一『魔法の世紀』
433.斎藤孝『語彙力こそが教養である』
432.三部けい『僕だけがいない街 7』
431.桜木紫乃『ホテルローヤル』
430.危険地報道を考えるジャーナリストの会編『ジャーナリストはなぜ戦場」へ行くのか』
429.高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』
428.米澤穂信『王とサーカス』
427.岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』 
426.和合亮一『詩の寺子屋』 
425.江川紹子『もか吉、ボランティア犬になる。』
424.松井優征『暗殺教室 17』
423.米澤穂信『真実の10メートル手前』
422.一色まこと『ピアノの森 26』
421.ユリイカ 1月臨時増刊号 総特集 坂口恭平
420.あだち充『MIX 8』
419.ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』
418.村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』 
417.東野圭吾『人魚の眠る家』
416.水木しげる『私はゲゲゲ』 
415.西尾維新『掟上今日子の備忘録』 
414.舘野仁美『エンピツ戦記』
413.岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』
412.増田俊也・一丸『七帝柔道記 2』
411.ウエルベック『服従』
410.國分功一郎監修『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
         『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』2(A-F) 
409.二ノ宮知子『七つ屋しのぶの宝石匣 2』
408.島田裕巳・中田考『世界はこのままイスラーム化するのか』
407.小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳』
406.伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
405.和夏弘雨×碧海景『火葬場のない町に鐘が鳴る時 3』
404.出口治明『人生を面白くする本物の教養』

403.保坂和志・小沢さかえ『チャーちゃん』

402.朝井リョウ『武道館』
401.森田真生『数学する身体』
400.吉本ばなな『ふなふな船橋』

      吉本ばなな『ふなふな船橋』PART2(固有名詞辞典)
399.上杉隆『悪いのは誰だ!新国立競技場』

398.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 12』
397.小橋めぐみ『恋読 本に恋した2年9ヶ月』
396.会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』
395.飲茶『14歳からの哲学入門』

394.板垣恵介『刃牙道 8』
393.星野智幸『呪文』
392.辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』

391.松井優征『暗殺教室 16』
390.坂口恭平『家族の哲学』 
389.石川美子『ロラン・バルト』
388.羽海野チカ『3月のライオン 11』

387.村上春樹『職業としての小説家』

386.羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』
385.二ノ宮知子『87CLOCKERS 7』
384.古市憲寿『保育園義務教育化』

383.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 掘

382.又吉直樹『東京百景』
 PART2(地名辞典)

381.ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』
380.畑中章宏『『日本残酷物語』を読む』

379.村上春樹『村上さんのところ』
 PART2(人名・作品名辞典)
378.辻田真佐憲『ふしぎな君が代』
377.三部けい『僕だけがいない街 6』

376.藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う。』
375.坂口恭平『幸福な絶望』

 PART2(地名索引) 
 PART3(人名索引)
 
   PART4 (書名索引)

 PART5 (音楽・映画索引)
 坂口恭平の熊本ーそれからー NEW!
374.板垣恵介『刃牙道 6』 
373.堤未果『沈みゆく大国 アメリカ <逃げ切れ!日本の医療>』
372.五十嵐泰正・開沼博編『常磐線中心主義』
371.松井優征『暗殺教室 15』

370.伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
369.岸政彦『断片的なものの社会学』
368.吉田修一『森は知っている』
367.甲野義紀『今までにない職業をつくる』
366.増田俊也編『肉体の鎮魂歌』
365.和夏弘雨『火葬場のない町に鐘が鳴る時』1、2
364.伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』
363.北条かや『整形した女は幸せになっているのか』
362.津田大介×西きょうじ『越境へ。』
361.又吉直樹『第二図書係補佐』
360.茂木健一郎『東京藝大物語』
359.あだち充『MIX 7』 
358.堀江貴文『あえて、仕事から外れる。逆転の仕事論』

357.吉川浩満『理不尽な進化』
356.椹木野衣『アウトサイダー・アート入門』
355.松井優征『暗殺教室 14』
354.黒柳徹子『トットひとり』
353.東野圭吾『ラプラスの魔女』
352.福島香織『本当は日本が大好きな中国人』
351.田中圭一『神罰 1.1』 
350.國分功一郎『近代政治哲学』
349.米澤穂信『満願』

348.海堂尊『スリジエセンター1991』
347.増田俊也×一丸『七帝柔道記 1』

346.千葉雅也監修『哲子の部屋掘
345.高橋源一郎『デビュー作を書くための超「小説」教室』
344.國分功一郎監修『哲子の部屋 供 
343.荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』
342.國分功一郎監修『哲子の部屋 機
341.柴崎友香『パノララ』
340.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 10』
339.常岡浩介『イスラム国とは何か』

338.ヤマザキマリ『国境のない生き方』
337.水道橋博士『藝人春秋』(文春文庫版) 
336.大塚明夫『声優魂』

335.國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(1)
                   『暇と退屈の倫理学』(2)

334.鈴木みそ『ナナのリテラシー 1』
332.又吉直樹『火花』

331.ニコ・ニコルソン『ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り』
330.中森明夫『寂しさの力』
329.岩田健太郎『サルバルサン戦記』
328.橋本幸士『超ひも理論をパパに習ってみた』
327.福島香織『中国複合汚染の正体』 
326.猪瀬直樹『救出 3.11気仙沼公民館に取り残された446人』

325.谷本真由美×ポール・ロブソン『添削!日本人の英語 PART2
324.坂口恭平『ズームイン、服!』

323.荒川弘×田中芳樹『アルスラーン戦記 3』
322.内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』
321.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 供
320.苫米地英人『『21世紀の資本論』の問題点』
319.阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

318.三部けい『僕だけがいない街 5』
317.増田俊也『VTJ前夜の中井祐樹』
316.水野敬也『夢をかなえるゾウ 3』
315.岩崎夏海『『もしドラ』はなぜ売れたのか?
314.フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』 

313.あだち充『MIX 6』

312.石田衣良『余命一年のスタリオン』
311.諌山創『進撃の巨人 15』
310.アレックス・カー『ニッポン景観論』

309.浦沢直樹・長崎尚志『MASTERキートン Reマスター』
 
308.倉方俊輔・柴崎友香『大阪建築 みる・あるく・かたる』
307.坂口恭平『隅田川のエジソン』

306.貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン 14』
 
305.堀江貴文&テリヤキ編集部『ばかウマ』
304.板垣恵介『刃牙道 3』

303.岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ!』
302.二ノ宮知子『七つ屋志のぶの宝石匣 1』 
301.辨野義巳『大便通』
300.船曳健夫『旅する知』

299.柄谷行人『遊動論 柳田国男と山人』

298.増田俊也・原田久仁信『KIMURA 4』

295.唐橋ユミ『わたしの空気のつくりかた』

294.海堂尊『アクアマリンの神殿』 
293.一色まこと『ピアノの森 25』
292.辻田真佐憲『日本の軍歌』
291.平野啓一郎『「生命力」の行方』
290.川村元気『億男』
289.勝間和代『稼ぐ話力』
288.ニック・ビルソン『ツイッター創業物語』
287.Jay.他『SHERLOCK ピンク色の研究』
286.松井優征『暗殺教室 11』
285.伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
284.小山宙也『宇宙兄弟 24』 
283.瀬戸内寂聴・堀江貴文『死ぬってどういうことですか?』 
282.早野龍五・糸井重里『知ろうとすること。』 
281.中井祐樹『希望の格闘技』
280.万城目学『悟浄出立』 
279.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 9』 
278.坂口恭平『現実脱出論』
277.坂口恭平『坂口恭平 躁鬱日記』
276.原田久仁信・増田俊也『KIMURA 3』
275.常見陽平『リクルートという幻想』
263.石田衣良『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークⅪ』
262.三部けい『僕だけがいない街 4』
261.東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』 PART2 
260.平野啓一郎『透明な迷宮』
259.井上雄彦『バガボンド 37』
258.千葉雅也『別のしかたで ツイッター哲学』
257.コロッケ『マネる技術』
256.塚谷裕一『スキマの植物図鑑』 
255.隈研吾『僕の場所』
254.桜坂洋・小畑健『All You Need Is Kill 2』
253.桜坂洋・小畑健『All You Need Is Kill 1』
252.出口治明『ビジネスに効く最強の「読書」』
251.堀江貴文・岡田斗司夫『ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる!』 
250.二ノ宮知子『87CLOCKERS 5』
249.土屋敦『男のパスタ道』
248.あだち充『MIX 5』
247.岩合光昭『ネコを撮る』
246.矢野久美子『ハンナ・アーレント』
245.蔵本由紀『同期する世界』
244.福岡伸一『生物と無生物のあいだ』
243.東浩紀・桜坂洋『キャラクターズ』
242.仲野徹『エピジェネティクス』
241.一色まこと『ピアノの森 24』
目次 | 22:50 | comments(0) | - | - |
戸谷洋志『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

多くの人にとって、Jポップの歌詞は、好きで何度も聞き返す場合でも、感覚的に聞き流すことが多く歌詞の内容について深く考えることはめったにない。けれども、優れた曲の歌詞は、必ずと言ってよいほど、その背後にあるストーリーを持ち、何らかのテーマを、そして特定の世界観を持っている。その中には、生と死、愛、出会いと別れ、過去と未来といったテーマが表現されている。そのテーマの大部分は、数千年来人類が「哲学」の名の下で探究してきたテーマと同じものである。

 

戸谷洋志『Jポップで考える哲学 自分を問い直す15曲』(講談社文庫)は、Jポップの15の名曲にこめられたメッセージを、それぞれと共通した価値観を持つ哲学者の考えを参照しながら、分析し、掘り下げてゆく。それによって時に謎めいたものであるJポップの歌詞の背後に表現された世界と、哲学の基本的な概念の双方が、同時に理解できるようになっている。

 

取り上げられる15曲はMr. Chldren「名もなき詩」、ゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」、乃木坂46「君の名は希望」、Al「Story」、西野カナ「会いたくて会いたくて」、宇多田ヒカル「誰かの願いが叶うころ」、BUMP OF CHICKEN「天体観測」、aiko「キラキラ」、東京事変「閃光少女」、RADWIMPS「おしゃかしゃま」、浜崎あゆみ「Dearest」、ONE OF ROCK「A new one for all, All for the new one」、「Believe」、SEKAI NO OWARI「RPG」、いきものがかり「YELL」の15曲。

 

各テーマに3曲をあてながら、教師と生徒の対話の中で、「自分」「恋愛」「時間」「死」「人生」の5つの大きなテーマにスポットをあてる構成となっている。

 

そうすることによって、単なる哲学者の考えの紹介とは何が異なるのだろう。

 

それは自分たちの言葉で哲学することなのである。

 

私たちの言葉で哲学する、ということは、私たちの問題を考える、ということです。Jポップを通じて哲学することから見えてくるのは、今を生きている私たちにとって何が問題なのか、何が大切なことなのか、何を考えなければならないのか、ということです。p14

 

身近な言葉で哲学と共通するテーマを考えるとき、私たちは哲学を、遠く離れた国の古い時代の考えとしてではなく、現在この場所を生きる私たちの問題を考え、さらには解決する手段に変えることができるのである。

 

たとえば「名もなき詩」のテーマとなる考えは、「自分らしさ」とは何かという問いである。そのキーワードとなるのが、「あるがままの心」と「自分らしさの檻」という言葉である。この「自分」を考える時に役に立つ哲学者として、近代ドイツの哲学者としてカントが召喚されることだろう。

 

あるいは西野カナの「会いたくて震える」という歌詞は「恋人」と「自分」との距離のない関係性ゆえに生じる欠如の感覚を表現している。このときに援用されるのがフランスの哲学者メルロ=ポンティの「癒合性」の考えである。

 

隣り合った曲はバラバラのテーマを扱うのではなく、隣接した問題を考えながら、一つのテーマをより深く掘り下げてゆく。そうすることで、同時にこの時代を生きる上で直面するテーマを、読者一人一人が考えることを余儀なくされるのである。

 

本文の中で参照される哲学者は、カントフィヒテヘーゲルブーバーメルロ=ポンティレヴィナスベルクソンシモーヌ・ヴェーユジョルジュ・バタイユキルケゴールハイデガーサルトルパスカルヤスパースニーチェと多岐にわたる。

 

どの歌詞のどの言葉と、これらの哲学者のどの概念がシンクロするのかはとてもスリリングで、最大の見どころと言えるだろう。

 

一種の若者同士の暗号のように謎めいたJポップの歌詞を、明晰なビジョンの元で透視しながら、同時に哲学的な文脈の中に位置づけてゆく著者の力業は見事である。しかし、本書はそれにとどまらず若い世代の読者を、ふだん疎遠である哲学の世界へと道案内し、同時に生きてゆく上で大事な問題を一回り考えさせずにはおかないのである。

 

知らず知らずのうちに、読者は哲学の言葉をわがものとし、自らの体験を振り返りながら、その本質を考えること、すなわち哲学することを促される。著者の意図は、十分に実現されている。

燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

インターネットでの公開時より話題騒然となった燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)は、1990年代後半の東京を舞台とした青春回想小説、いわば世紀末版「日々の泡」である。

 

フェイスブックを見るうちに、見つけ出した昔の恋人の名前。決して美人ではないけれど、誰よりも好きになり、大きな影響を受けたあの女性の名前を、ボクは意に反して、友達申請のボタンをクリックしてしまう。そこから奔流のように蘇る20年前の思い出。

 

高校卒業後広告の専門学校は出たものの、希望通りの就職先など望むべくもなく、就職先はエクレアの工場。そのころ雑誌の文通欄で出会ったのが、小沢かおりと名乗る女性だった。1995年の夏、六本木のテレビの製作会社への転職を決めると、彼女と円山町のラブホテルでデートを重ねる。やがて、会社はブームに乗り、17店のカフェバー経営者として時代の寵児となった佐内慶一郎にも接近する中で、ボクが出会ったもう一人の女性スー。彼女は、佐内の愛人と噂されるが、その実は五反田を拠点に暗躍する組織のメンバーでもあった。工場の唯一の同僚だった七瀬は、ゴールデン街のバーのママとなったが、バブルの狂乱の余熱のような状態は長くは続かなかった。佐内は、国税の査察とスキャンダルで失墜し、スーも行方不明となる。ノストラダムスの大予言が終末を告げた1999年の夏、人類は滅亡しなかったが、やってきたのは誰よりも好きだったブスの彼女との別れであった。

 

フェイスブックの友達申請を目にした彼女はいったいどんな反応をするのだろうか。再び出会うことがあるなら、あのとき言えなかったあの言葉を伝えたい…

 

二時間もあれば読めてしまう決して長くない小説だが、その中には1990年代後半のバブルの余熱のような時代の雰囲気が感じられて、それが私たちの心の中で様々な連鎖反応を引き起こす。地続きになった同じ時代を自分も生き、同じような恋をして、同じように狂ったように仕事をしていた、自らの初心で恥ずかしい姿をつい思い浮かべてしまうのが、このヒットの理由だろう。

 

たとえばこんな文章。

 

 1995年の夏の終わりに彼女に出会って、秋の初めにはもう彼女への気持ちは引き返せない場所にいた。

 イチローがベストナインとゴールデングラブとなった年、同い年のボクのハイライトは人生初の彼女と人生初の転職、つまり工場を辞めたことだった。p32

 

あるいはこんな文章。

 

 1997年夏、彼女のこの頃の関心事は『エヴァ』一色だった。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを君に』。やたら張り切って前売りを買っていた彼女に誘われて、深夜の新宿ミラノ座の最終の回にふたりして飛び込んだ。彼女は映画の中盤からあからさまに寝ていたくせに、エンドロールが流れ劇場が明るくなると、「やっぱりいいね」なんて言って笑った。内容はまったく思い出せないけれど、思い出せないから、あの映画は今でもボクの青春だ。p98

 

きわめつけはこんな文章。

 

 会社自体が、来る仕事をなんでも受けなきゃいけなかったあの頃、ボクたちはどんな人種からの仕事もよくこなしていた。その中で最も下品な種類の人たちが、この東京という町に心底愛され、馴染み、巣食っていることに、ボクは気づかざるをえなかった。pp93-94

 

決して特別な出来事が語られているわけではないが、鋭い言葉の切り口で、時代の断面を切り取り、それがかつてのわたちの痛々しくもいとおしい記憶を刺激し続けるのである。

 

LINE、フェイスブック、ツイッター…SNS全盛の時代、数年前、数十年前の過去との遭遇の入り口は、無数に私たちの前に開けている。その中に見い出される過去の自画像の豊かな可能性に気づかせてくれた『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、2010年代を代表する都市小説の傑作である。

 Kindle版

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