つぶやきコミューン

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円城塔・田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

円城塔・田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)はいずれも職業作家を営む夫婦によるリレー書評集である。交互に課題図書を出し合いながら、それに応える形で、次の書評が書かれる。タイトルのすぐ後のページには、大きな太字でこう書かれている。

 

これは、夫婦がお互いを理解するために

本を勧めあった格闘の軌跡である。

 

あらかじめ『デスノート』のような細かいルールが決められている。ベースのルールは次のようにいたってシンプルだ。

 

<< ルール>>

  相手に読ませたい本を指定する。

  指定された課題図書についてのエッセイを書き、次の課題図書を指定する。

  鬚魴り返す。

 

しかし、その後に10個もの細則が続いている。その半ばは、03の「課題図書は入手が容易なものでなければならない」など本の対象がとりとめもなく広がり、実行不可能になるのを抑えるためだが、残り半分は「エッセイの内容を家庭内で相談してはならない」など、出来レースを禁じ、リレー書評の緊張感を保つためのものだ。

 

かくして田辺青蛙による課題図書の指定より始めて、40のエッセイ、39編の書評が並ぶことになる。だが、問題はこのエッセイが単なる書評にとどまらないことだ。

 

一種の枠物語のように、書評的なコンテンツの外部には、書き手の近況報告も含まれ、相手の本の選択に対するコメントもあれば、ふだんの生活習慣の暴露もある。二人のなれそめの思い出話もまじえながら、しだいにスリリングなプライバシーの暴露合戦の様相を帯びたり、犬も食わぬ夫婦の愚痴やのろけの言い合いになったりする。その度に、読者は不安になったり、ほのぼのしたりすることになる。けれども、最終的には、この企画の枠である課題を出し合うというルーティンワークへと戻り、次回へと続いてゆくのである。

 

指定される39冊の本は、多岐にわたる。つのだじろうの『恐怖新聞』や弘兼憲史の『黄昏流星群』のようなコミックもあれば、『年収は「住むところ」で決まる』のようなベストセラーもある。渡辺淳一の『花埋み』やスティーブン・キングの『クージョ』、スタニスラフ・レムの『ソラリス』のような様々なジャンルの小説もある。『板谷式つまみ食いダイエット』や『小説講座 売れる作家の全技術』のようなノウハウ本もある。著者を見ても、吉村昭、山田風太郎、幸田文、池波正太郎、須賀敦子、吉屋信子、中島らも、ロラン・バルト、レム・コールワースと、硬軟かなりのバラつきが見られる。

 

夫は表紙が怖い本が苦手と以前この連載で暴露していたので、私が知る限り最も怖い表紙の本を選ぶことにする。p46

 

円城がホラーなど怖い本が嫌いで、その嫌いなコーナーを田辺の課題図書は狙っているようでもあるし、逆に田辺が具体的な物から離れた抽象的、数理的な話が苦手で、そのエリアを突くような課題図書を円城が選ぶこともしばしば見られる。そうして、いつしかエッセイには不穏な空気が漂い始めるのである。まるで、課題図書として取り上げられたスティーブン・キングのホラー小説のように。

 

 それって、話を長引かせるための描写じゃないの、というのは全然違って、かなり緻密な歯車がゆっくりと用意されていきます。ただし、物事を正常に回すための歯車ではなく、噛み合わせを狂わせたまま進行していくことで、悲劇を生産してしまう類いの歯車ですが。p51

 

さらに、ゲッツ板谷の『板谷式つまみ食いダイエット』のあたりから、円城塔のダイエットが実行され、その度に70キロ台と80キロ台を股にかけた悲喜こもごもの体重変化が、報告される。そのくだりが、生真面目で難解な文体がトレードマークの円城の口から出てくると、ギャップゆえに笑える。

 

 ダイエット本で一発当てようぜ、とかいつも言ってるのも妻の方で、書店へ出かけては、「真似された!また真似された!;とか言いながら帰ってきます。「〇〇するだけダイエット」の○○に何かを入れる遊びがうちでは年中流行っているのです。「死ぬだけダイエット」とか「太るだけダイエット」とか「痩せるだけダイエット」とか「いるだけダイエット」とか。p64

 

はたして、夫婦の相互理解は深まるのか、それとも逆に亀裂が広がるのか。そして、円城塔のダイエットは成功するのか?

 

紹介される本の広がりで、読者は多くのブックガイド的、あるいは雑学的知識を増やしながら、ある夫婦関係の日常とその変化を、間近に楽しむことができる。まるで話がかみ合わないのに夫婦関係が成立することの不思議。コミュニケーションとは何か、を改めて考えさせる一冊である。抽象的・論理的な文章による小説など読者を選ぶ円城塔の著書の中では、本書は飛びぬけてわかりやすい本であり、最高の円城塔入門書と言えるかもしれない。

 

『読書で離婚を考えた』は、一粒で何度もおいしい本である。

 

 

目次

索引


著者別索引コミック編1【ア〜ト】 著者別索引コミック編2【ナ〜ワ】

小説
LOVE STORIES (gooブログ)
「ホワイトラブ」1
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供屮據璽僉璽螢譟璽轡腑鵝1, 2, 3, 4, 56, 78,  9,  10, 11-12, 13-14, 15, 16-17,  18,19
掘峺諺杪╋酋福1, 2, 3, 4, 5 6, 7, 8, 9,10,11, 12, 13, 14,15,16,17,18,19

Books
474.ラルフ・ミレ―ブス『バイコヌール宇宙基地の廃墟』
473.田中圭一『Gのサムライ』
472.宮城公博『外道クライマー』
471.山本崇一郎『からかい上手の高木さん』1〜3
470.速水健朗『東京どこに住む?住所格差と人生格差』 
469.勝間和代『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』
468.隈研吾『建築家、走る』
467.三部けい『僕だけがいない街 8』
466.福島香織『SEALsと東アジア若者デモってなんだ!』
465.ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
464.松井優征・佐藤オオキ『ひらめき教室』 
463.清野とおる『増補改訂版 東京都北区赤羽 1』
462.佐々木敦『ニッポンの文学』 
461.桜木武史『シリア 戦場からの声』
460.平野啓一郎『マチネの終わりに』
456.町田康『リフォームの爆発』
455.諌山創『進撃の巨人 19』
454.安田寛『バイエルの謎』 
453.松井優征『暗殺教室 19』
452.万城目学『バベル九朔』 
451.二ノ宮知子『87CLOCKERS 8』 
450.佐々木敦『例外小説論』
449.落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』
  PART2 魔法使いになる方法
448.甲斐谷忍『無敵の人 機 
447.堀江貴文責任編集『堀江貴文という生き方』
446.瀬谷ルミ子『職業は武装解除』
445.万城目学『ザ・万字固め』
444.宮崎克×あだちつよし『怪奇まんが道』
443.大崎善生『聖の青春』 
442.松井優征『暗殺教室 18』
441.堀江貴文『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』
440.森山高至『非常識な建築業界 「どや建築」という病』
439.森博嗣『作家の収支』
438.安田菜津記『それでも、海へ』
437.岡本亮輔『聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで』
436.桐木憲一『東京シャッターガール』(1〜3)
435.松浦儀実・渡辺保裕『神様がくれた背番号』(1〜3)
434.落合陽一『魔法の世紀』
433.斎藤孝『語彙力こそが教養である』
432.三部けい『僕だけがいない街 7』
431.桜木紫乃『ホテルローヤル』
430.危険地報道を考えるジャーナリストの会編『ジャーナリストはなぜ戦場」へ行くのか』
429.高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』
428.米澤穂信『王とサーカス』
427.岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』 
426.和合亮一『詩の寺子屋』 
425.江川紹子『もか吉、ボランティア犬になる。』
424.松井優征『暗殺教室 17』
423.米澤穂信『真実の10メートル手前』
422.一色まこと『ピアノの森 26』
421.ユリイカ 1月臨時増刊号 総特集 坂口恭平
420.あだち充『MIX 8』
419.ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』
418.村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』 
417.東野圭吾『人魚の眠る家』
416.水木しげる『私はゲゲゲ』 
415.西尾維新『掟上今日子の備忘録』 
414.舘野仁美『エンピツ戦記』
413.岩崎夏海『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』
412.増田俊也・一丸『七帝柔道記 2』
411.ウエルベック『服従』
410.國分功一郎監修『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
         『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』2(A-F) 
409.二ノ宮知子『七つ屋しのぶの宝石匣 2』
408.島田裕巳・中田考『世界はこのままイスラーム化するのか』
407.小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳』
406.伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』
405.和夏弘雨×碧海景『火葬場のない町に鐘が鳴る時 3』
404.出口治明『人生を面白くする本物の教養』

403.保坂和志・小沢さかえ『チャーちゃん』

402.朝井リョウ『武道館』
401.森田真生『数学する身体』
400.吉本ばなな『ふなふな船橋』

      吉本ばなな『ふなふな船橋』PART2(固有名詞辞典)
399.上杉隆『悪いのは誰だ!新国立競技場』

398.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 12』
397.小橋めぐみ『恋読 本に恋した2年9ヶ月』
396.会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』
395.飲茶『14歳からの哲学入門』

394.板垣恵介『刃牙道 8』
393.星野智幸『呪文』
392.辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』

391.松井優征『暗殺教室 16』
390.坂口恭平『家族の哲学』 
389.石川美子『ロラン・バルト』
388.羽海野チカ『3月のライオン 11』

387.村上春樹『職業としての小説家』

386.羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』
385.二ノ宮知子『87CLOCKERS 7』
384.古市憲寿『保育園義務教育化』

383.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 掘

382.又吉直樹『東京百景』
 PART2(地名辞典)

381.ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』
380.畑中章宏『『日本残酷物語』を読む』

379.村上春樹『村上さんのところ』
 PART2(人名・作品名辞典)
378.辻田真佐憲『ふしぎな君が代』
377.三部けい『僕だけがいない街 6』

376.藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う。』
375.坂口恭平『幸福な絶望』

 PART2(地名索引) 
 PART3(人名索引)
 
   PART4 (書名索引)

 PART5 (音楽・映画索引)
 坂口恭平の熊本ーそれからー NEW!
374.板垣恵介『刃牙道 6』 
373.堤未果『沈みゆく大国 アメリカ <逃げ切れ!日本の医療>』
372.五十嵐泰正・開沼博編『常磐線中心主義』
371.松井優征『暗殺教室 15』

370.伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
369.岸政彦『断片的なものの社会学』
368.吉田修一『森は知っている』
367.甲野義紀『今までにない職業をつくる』
366.増田俊也編『肉体の鎮魂歌』
365.和夏弘雨『火葬場のない町に鐘が鳴る時』1、2
364.伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』
363.北条かや『整形した女は幸せになっているのか』
362.津田大介×西きょうじ『越境へ。』
361.又吉直樹『第二図書係補佐』
360.茂木健一郎『東京藝大物語』
359.あだち充『MIX 7』 
358.堀江貴文『あえて、仕事から外れる。逆転の仕事論』

357.吉川浩満『理不尽な進化』
356.椹木野衣『アウトサイダー・アート入門』
355.松井優征『暗殺教室 14』
354.黒柳徹子『トットひとり』
353.東野圭吾『ラプラスの魔女』
352.福島香織『本当は日本が大好きな中国人』
351.田中圭一『神罰 1.1』 
350.國分功一郎『近代政治哲学』
349.米澤穂信『満願』

348.海堂尊『スリジエセンター1991』
347.増田俊也×一丸『七帝柔道記 1』

346.千葉雅也監修『哲子の部屋掘
345.高橋源一郎『デビュー作を書くための超「小説」教室』
344.國分功一郎監修『哲子の部屋 供 
343.荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』
342.國分功一郎監修『哲子の部屋 機
341.柴崎友香『パノララ』
340.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 10』
339.常岡浩介『イスラム国とは何か』

338.ヤマザキマリ『国境のない生き方』
337.水道橋博士『藝人春秋』(文春文庫版) 
336.大塚明夫『声優魂』

335.國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(1)
                   『暇と退屈の倫理学』(2)

334.鈴木みそ『ナナのリテラシー 1』
332.又吉直樹『火花』

331.ニコ・ニコルソン『ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り』
330.中森明夫『寂しさの力』
329.岩田健太郎『サルバルサン戦記』
328.橋本幸士『超ひも理論をパパに習ってみた』
327.福島香織『中国複合汚染の正体』 
326.猪瀬直樹『救出 3.11気仙沼公民館に取り残された446人』

325.谷本真由美×ポール・ロブソン『添削!日本人の英語 PART2
324.坂口恭平『ズームイン、服!』

323.荒川弘×田中芳樹『アルスラーン戦記 3』
322.内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』
321.ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 供
320.苫米地英人『『21世紀の資本論』の問題点』
319.阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

318.三部けい『僕だけがいない街 5』
317.増田俊也『VTJ前夜の中井祐樹』
316.水野敬也『夢をかなえるゾウ 3』
315.岩崎夏海『『もしドラ』はなぜ売れたのか?
314.フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』 

313.あだち充『MIX 6』

312.石田衣良『余命一年のスタリオン』
311.諌山創『進撃の巨人 15』
310.アレックス・カー『ニッポン景観論』

309.浦沢直樹・長崎尚志『MASTERキートン Reマスター』
 
308.倉方俊輔・柴崎友香『大阪建築 みる・あるく・かたる』
307.坂口恭平『隅田川のエジソン』

306.貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン 14』
 
305.堀江貴文&テリヤキ編集部『ばかウマ』
304.板垣恵介『刃牙道 3』

303.岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ!』
302.二ノ宮知子『七つ屋志のぶの宝石匣 1』 
301.辨野義巳『大便通』
300.船曳健夫『旅する知』

299.柄谷行人『遊動論 柳田国男と山人』

298.増田俊也・原田久仁信『KIMURA 4』

295.唐橋ユミ『わたしの空気のつくりかた』

294.海堂尊『アクアマリンの神殿』 
293.一色まこと『ピアノの森 25』
292.辻田真佐憲『日本の軍歌』
291.平野啓一郎『「生命力」の行方』
290.川村元気『億男』
289.勝間和代『稼ぐ話力』
288.ニック・ビルソン『ツイッター創業物語』
287.Jay.他『SHERLOCK ピンク色の研究』
286.松井優征『暗殺教室 11』
285.伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
284.小山宙也『宇宙兄弟 24』 
283.瀬戸内寂聴・堀江貴文『死ぬってどういうことですか?』 
282.早野龍五・糸井重里『知ろうとすること。』 
281.中井祐樹『希望の格闘技』
280.万城目学『悟浄出立』 
279.北条司『エンジェル・ハート 2ndシーズン 9』 
278.坂口恭平『現実脱出論』
277.坂口恭平『坂口恭平 躁鬱日記』
276.原田久仁信・増田俊也『KIMURA 3』
275.常見陽平『リクルートという幻想』
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プチ鹿島『芸人式新聞の読み方』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

Kindle版は9月28日まで50%OFFの605円

 

「時事芸人」プチ鹿島『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)は、いわばメタ視点からのメディアリテラシーの本である。

 

しかし、虚実をいったん宙づりにして、面白がるという点で、他の真面目なメディアリテラシーの本とは違っている。新聞を、むしろエンタメとして楽しむ方法なのだ。タイトルには、「芸人式」とあるが、むしろプロレス式といった方がよいかもしれない。前著の『教養としてのプロレス』と同じ方法論にもとづいて書かれているし、本書の冒頭にもこうある。

 

 大好きなプロレスも、「何が本当か」を見極めるのが実に難しいジャンルだった。
会場の座る席によって見える試合の風景がまったく違うように、プロレスそのものも見る人の心の角度によってまったく味わいが違う。何をうけとめ何を感じたのか。「真実」はわからない。確実なことは、自分が思う「真実らしきもの」があるのみ。いったリングの中で何が行われていたのか、自分の見立てやその真贋を探るためには、スポーツ紙やプロレス雑誌でさまざまな視点を読み比べてみるしか手だてがなかった。だから、夢中でむさぼり読んだ。プロレスファンは、「リテラシー」なんて言葉を知らない頃から、おのずと高い「読むリテラシー」を身に付けていたのだ。

 

虚実あい半ばする報道、ニュースの中に、自分なりの「真実」を探すという点では、対象がプロレスであろうと、政治であろうと、芸能であろうと変わるところはない。芸人式新聞の読み方は、プロレス式メディアリテラシーの本であるのだ。

 

本書で扱うのは、単に朝日、毎日、読売、産経、日経といった大新聞だけではない。日刊スポーツ、デイリースポーツ、報知新聞、スポーツニッポン、サンケイスポーツ、東京中日スポーツといった朝刊スポーツ紙に、東京スポーツや日刊ゲンダイといった夕刊紙やタブロイド紙を加え、それぞれの傾向と対策を詳述している。

 

新聞の読み方の第一は、各新聞のキャラづけである。それぞれの新聞をプチ鹿島流にキャラづけしてゆくと、たとえば、朝日新聞は、「高級な背広を着たプライドの高めのおじさん」産経新聞は、「いつも小言を言ってる和服のおじさん」、毎日新聞は「書生肌のおじさん」、東京新聞は「問題意識が高い下町のおじさん」ということになる。すべてに「おじさん」という言葉がつくように、日本のメディアは今でも「おじさん」編集者が「おじさん」読者を想定しながらつくる「おじさん」メディアが主流なのである。

 

それぞれの新聞は、どの記事にどのページのどれだけのスペースを充てるか、どのニュースソースにもとづいて報じるか、どんな見出しをつけるかなどによって特徴づけられる。

 

たとえば安保法制反対の国会前デモの報じ方。一面で大きく報じた朝日新聞や東京新聞に対し、産経新聞や読売新聞は社会面で報じた。デモの参加人数でも主催者側発表と、警察関係者によるもののいずれをとるかによって、各新聞のスタンスが明示される。

 

新聞の読み方の第二は、口癖への着目だ。どの新聞もベスト3までは似たような口癖(「〜すべきだ」「〜したい」「〜ほしい」)があるが、さらに細かく見てゆくと、「必要だ」「納得できない」などの独自の口癖が出てくる。

 

それが何に対して適応されるかで、その新聞の価値観が浮き彫りになる。たとえば、読売新聞が「必要がある」という表現を用いるのは、中国に関してがもっとも多く、毎日新聞が「納得がゆかない」のはほぼ政権のやり方に関してであるだろう。

 

 「必要がある」という言葉を抽出してみると、『読売』は中国にとても敏感なことがわかる。中国に対してはとにかく米国と「連携」して「注視」し、「自制を促す」ことが必要があるのだ。

 

新聞は、一紙だけでは真実に近づくことができない。政界であろうと、芸能界であろうと、スポーツ界であろうと、複数の報道を読み比べることで、ようやく行間の真実が読み取れるようになる。そのときの目安となるのが、メディアの情報源への距離である。政府の一番中枢の声を伝えているのはどの新聞か、芸能界であれば、たとえばSMAPの報道の場合なら、ジャニーズ事務所の声を一番忠実に伝えているのはどのスポーツ新聞なのか。それは、事前の報道と、その後の事態の推移や発表された事務所の声との符牒によって、自然と浮かび上がってくるのである。

 

 このように、朝刊スポーツ紙には、球団や事務所の「発表報道」「情報戦」という側面がある。中でも、2016年の初頭に持ち上がったSMAPの解散騒動は、「この記事は誰が書かせているのか」そして「どのような世論を形成するのが目的なのか」という情報戦の視点で読み比べするうえで、まさに超ド級の材料だったと言えるだろう。

 

この文章に始まるSMAPの解散騒動をめぐる部分は、本書でも白眉の部分であり、多くの記事を読み比べながら事件の真相に肉迫するさまは、さながらスリリングなミステリーを読むようである。

 

メディアリテラシーの最大のポイントは、個々の報道を、点を点のままで終わらせず、線でつながるようにすることなのだ。


スポーツ新聞やタブロイド紙の場合には、「におわせる」表現が多用される。ほぼ確実だが、決定的な証拠が欠けている場合もあれば、当事者との力関係によって、はっきりと書けない場合もある。そのにおわせ方も集合写真と見出しとの位置関係で、誰かわかるように言外で伝えたりと実はかなり芸が細かいのである。

 

だから、東京スポーツのように、一見トンデモに見える記事も、玉石混交で、実は文春砲や新潮砲のはるか先を行っている場合も少なくないからバカにできない。

 

新聞は、そしてメディアは、単なる第三者による真実の伝達ではない。しばしば、流されるニュース自体が、当事者による「情報戦」の様相を帯びてくる。つまり、いずれの側も自分に有利な情報を流そうとするのである。それはウクライナ情勢でも、つちやかおりW不倫報道でも、変わることはないのである。

 

どの新聞、どのスポーツ新聞が、どのような傾向を持っているかは、誰でもおおざっぱなイメージを持っている。しかし、著者はそれらを持続的に観察、分析し続けて、個々のメディアの文章の特徴まで、微に入り細に入り明らかにしている。メディアリテラシーの本は、個別具体的な言及を避けるとベタな一般論的内容にならざるをえないが、著者は政治でも、芸能でも、具体的に踏み込むことをおそれない。それゆえ、本書は他のどの本よりもわかりやすく、親切なメディアリテラシーの本となっているのである。

 

それまで漠然と読み流していた新聞の文章の一つ一つ、見出しの一つ一つが別の輝きをもって現れてくる。ちょっとした語尾に、その新聞ならでは「芸風」を感じ、思わずニヤニヤと笑いがこみあげてしまう。さらには相反する内容の記事のどちらが真実に近いかさえも見えるようになるかもしれない。

 

『芸人式新聞の読み方』は、誰が読んでも目から鱗が落ちる発見がある、楽しいメディアリテラシーの本なのだ。

 

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